警察の特殊部隊「SAT」初めて表舞台に出た事件
ハイジャックや立てこもり事件において、日本政府は「人命尊重」を掲げて慎重な対応に終始する印象があります。しかし、警察による強行突入が敢行された事例も過去には少なくありません。そして、強行突入によって警察の特殊部隊「SAT」が初めて姿を現した事件が「全日空857便ハイジャック事件」です。
警視庁第六機動隊特科中隊が強行突入
1995年の「全日空857便ハイジャック事件」では、日本のハイジャック史上はじめて強行突入が行われました。犯人はアイスピックのようなもので客室乗務員を脅して、乗客を後部座席に集め「給油をして東京へ戻れ」と要求したのです。
「尊師のためにハイジャックした」などと語り、液体の入ったビニール袋を突き刺すふりをするなど、オウム真理教との関連や、この年の3月に起きた地下鉄サリン事件を連想させて犯人は脅しをかけました。
このため、コックピット内にいた機長は管制塔に「何人か殺されている」「爆弾のタイマー音が聞こえる」「早く給油してくれ」などと声を荒らげてパニック状態。ここで投入されたのが、警視庁第六機動隊特科中隊です。
防弾ヘルメットと防弾チョッキを装着した同隊や北海道警の計30人が、機内から死角となる機体後尾から接近。独自に開発したハシゴと足場を組んで機体左側3つのドアを確保し、2人は主脚後部の整備用入口から進入して犯人のいるキャビン床下に到着。一斉に突入して犯人を取り押さえました。
警察の特殊部隊「SAT」として発足
1977年のバングラディシュ・ダッカ空港における日本赤軍のハイジャック事件を機に特殊部隊として設置されたのが、同隊と大阪府警の「零中隊」です。「人命尊重」を掲げて600万ドルを赤軍に渡し、逃亡させたことから国際的な批判を浴びたため設立したと言われています。
公式な名称はなく、警察内でもほとんど存在を知られていなかった秘匿部隊でしたが、この全日空ハイジャック事件をきっかけに正式に公表され、警察の特殊部隊「SAT」として発足したのです。
結局、凶器はドライバー1本だけ、オウムとも無関係の単独犯行でしたが、影の存在だった特殊部隊を「対テロ戦」の表舞台に引き出し、「有事への備え」「武力による解決」を世間に認知させる結果をもたらした歴史的な事件といえるのでした。
ラジオライフ編集部
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