最高裁でも棄却されたNHKのトンデモ主張とは？

NHK受信料に関する裁判で、現在もっとも影響を持つ判決となっているのが2017年12月に出された最高裁によるものです。NHKと一般視聴者が争ったこの裁判で、最高裁が出した判決はNHK側が求めた受信料の満額を視聴者が支払うものでした。しかし、じつはNHKが裁判で認めてほしかったのは、よりNHK側に有利な内容だったのです。

NHKも最高裁へ上告を行っていた理由

NHK側から受信契約が未契約だった視聴者を提訴したこの裁判で第一審の東京地裁判決は、NHKが主張した受信料20万220円について視聴者側に満額の支払いを命じるものでした。その後、控訴審ではNHK側が求める受信料の金額を上げ、東京高裁はNHK側が主張する満額を認め21万5640円のNHK受信料支払いを視聴者へ命じています。

しかし、この裁判では視聴者だけでなくNHKも最高裁へ上告を行っています。裁判で求めた受信料が全額支払われる判決に対し、NHKが控訴や上告を行った理由は、NHKが一番認めてほしかった主張を、東京地裁・東京高裁の判決がいずれも退けたためです。

民事訴訟では、一番認めてほしい内容である「主意的請求」のほかに、別の内容となる「予備的請求」を合わせて提訴することがあります。主意的請求が認められなかった場合に備え、予備的請求を追加し全面敗訴を防ぐために行うものです。

NHKの主張が最高裁で認められた場合

NHKが主意的請求としていたのは、NHK受信契約を求める通告書が視聴者に到達した時点でNHK受信契約が成立。視聴者はこの契約にもとづき、NHKへ受信料を支払うという内容でした。仮にNHKの主意的請求が裁判で認められると、NHKが未契約の世帯に通告書を送れば、NHKが未契約世帯へ受信料を請求できることになるものです。

しかし、東京地裁・東京高裁ともにNHKの主意的請求については棄却しています。では、なぜ視聴者側がNHK側が主張する受信料を満額支払う判決になったかといえば、NHK側の予備的請求のひとつである、判決に基づき視聴者はNHKと受信契約を結び、NHKへ未払い受信料を支払うという内容を認めたためです。

じつは、NHK側の主意的請求が最高裁で認められると、未契約世帯へのNHKの対応負担が大幅に減ることになります。というのも、通告書の発送のみでNHKとの受信契約が成立すれば、その後は支払督促や略式手続といった正式裁判によらない民事手続きを、NHKが活用できるためです。

最高裁はNHKの通告ではNGと判断した

支払督促や略式手続は、双方の合意がある場合のみ手続きが進むため、NHK受信料のケースであれば、視聴者側が拒否すれば正式裁判へと進みます。とはいえ、最高裁の判例を視聴者側が覆すには基本的には最高裁まで争う必要があり、ハードルが高いのです。

それでは、視聴者・NHK双方からの上告に対し、最高裁はどのような判断を行ったのでしょうか。最高裁は上告自体を受け付けない「上告不受理」ではなく上告を受理。そのうえで小法廷ではなく大法廷で審理を行ったうえ、双方の上告を棄却しました。つまり、最高裁は自身の判断としてNHKの主意的主張を認めなかったのです。

2017年12月6日に最高裁大法廷が上告を棄却したことにより、今後NHKが受信契約を渋る世帯へ契約を認めさせるためには、正式裁判による判決が必要ということになりました。NHKのWebサイトにおいても、未契約世帯に対してNHKがとる法的措置は民事訴訟となることが記載されています。