スクランブル発進の戦闘機はどんな交信をする?
軍用機の管制に関する交信であるミリタリーエアーバンドは国防に関わる重要な無線ですが、デジタル化も暗号化もされていません。アナログ波のAMモードで運用されています。これは旅客機が使うエアーバンドと全く同じで、管制の手順もほぼ同じ。ただし、旅客機のエアーバンドには存在しない管制が登場します。
軍用機ならではの管制席が登場する
ミリタリーエアーバンドも軍用機の飛行状態に応じて、管制席を順番に移しながら飛行しています。その中には旅客機のエアーバンドでは使われない、軍用機ならではの管制席が、飛行任務に応じて登場。管制の流れにも違いが出てきます。
1つは「他の基地への飛行」。これは管制官のいる空港間を飛行する旅客機と全く同じ流れです。基地の管制圏を離脱後、上空で航空路に入ってACCと交信。航空路管制を受けながら、目的地まで飛行します。
もう1つは「訓練空域への飛行」。これこそ軍用機の管制です。GNDの指示で誘導路から滑走路へと向かい、TWRの許可を得て離陸します。DEPの指示で高度を上げた後、旅客機には無い管制席「GCI」が登場します。
GCI(ジーシーアイ:Ground Controlled Intercept)は、地上要撃管制のことで飛行場の管制塔ではなく、他の場所にある戦闘を司るセクションと交信するもの。訓練空域を飛行する戦闘機を管制するのが役目です。この周波数は戦闘に関するものなので、非公開になっています。
スクランブル発進はいきなりTWR
訓練を終えて、RTB(アールティービー:Return To Base)と呼ばれる帰投時にはGCAが登場。GCA(ジーシーエー:Ground Controlled Approach)とは、着陸誘導管制のことです。
管制官は有視界飛行方式で飛行する戦闘機を音声で誘導して滑走路へと導きます。そして着陸。TWRと交信後、滑走路を出たところでGNDに移管されて、駐機場へ向かいます。
最後は「スクランブル発進」です。航空自衛隊の実戦的任務、領空侵犯機に対する緊急発進になります。日本の領空を守るために、実弾を装備した2機の航空自衛隊の戦闘機が緊急発進するスクランブルは、日本全国で年間千回近く行われています。航空自衛隊機によるスクランブルは、1日平均で3回ほど起きている計算です。
1秒を争う緊急事態のため、いきなりTWRが出てきます。滑走路の直近にあるアラートハンガーには、飛行可能状態にある戦闘機が完全武装で待機。時間短縮のため、GND抜きで滑走路へ向かいます。
このようにスクランブル発進で戦闘機が離陸するまでは、公開周波数である管制波が使われます。そして、ひとたび飛行場の管制圏を離れると、非公開周波数のGCI(ジーシーアイ)へと管制を移管するのです。GCIは「Ground Control Intercept」の略で、日本語で表記すると「地上要撃管制」となります。
スクランブル発進の6割は対中国
日本各地に設置された“防空の目”であるレーダーサイトがキャッチした、国籍不明機「アンノウン」の動きは防空指令所に集約。GCIは、そこから戦闘機のパイロットへ有利なポジションを取れるように無線で誘導する管制なのです。
緊急発進した戦闘機は、防空指令所から任務(対領空侵犯処置対応)を与えられ、国籍不明機の機数や距離と方位の指示を受けながら接近。戦闘機のパイロットが国籍不明機を確認すると、機体の特徴をGCIで報告します。
そして、国籍不明機の監視を継続。さらに領空に近付いて来る場合は、世界共通波の国際緊急周波数(121.500/243.000MHz)で警告を発します。この警告によって国籍不明機は引き返し、日本の領空は守られるのです。
ちなみに、警告は英語だけでなく、中国語やロシア語でも行われます。実際、航空自衛隊のスクランブルの6割は南西航空方面隊による対中国であり、3割は北部航空方面隊による対ロシアです。GCIを受信できれば、テレビや新聞ではわからない国際情勢の緊張を垣間見られます。
有視界飛行方式で飛行するミリタリーエアーバンドの管制が旅客機の管制と違う部分は、GCIとGCAの2つの管制の存在。ここを押さえることが、ミリタリーエアーバンド攻略のカギなのです。
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