鑑識とは捜査一課の刑事と立場が同じ重要できつい仕事
現場で腰を屈めてうずくまり、黙々と働く制服の捜査員。鑑識課員といえば、そんな地味できつい仕事というイメージがあるでしょう。しかし、どんな事件も起訴か不起訴の判断もしくは裁判で容疑者を有罪とするには、鑑識課の働きがないと成り立ちません。鑑識とはそれだけ重要な仕事なのです。鑑識とはどんな仕事か見ていきましょう。
鑑識とは刑事と立場が同じ重要できつい仕事
鑑識課の仕事とは、遺留品を集めること。それこそ鑑識課員は髪の毛1本から爪のひとかけらまで収集し、指紋や足跡といった痕跡も独自の技術で採集・分析します。
鑑識が集めたこれらの遺留品が逮捕から起訴、そして裁判の判決に至るまでの証拠になります。つまり、苦労して被疑者を逮捕し自供を得ても、鑑識課員の集めた証拠がなければ、最終的に無罪となる可能性が大。鑑識とはそれだけ重要な仕事なのです。
鑑識課は刑事部に属していますが、他の刑事課などとは独立しています。鑑識とは捜査第1課や捜査第2課の刑事などと立場は同じなのです。
鑑識の仕事がきついといわれる所以
鑑識課は「足跡係」「指紋係」、現場をカメラで記録する「写真係」などの専門分野に分かれ、各々が職人のようなプライドを持っています。そのため、現場を有利に保つために、鑑識の係員同士が対立することもあるのです。
しかし、小さな所轄では鑑識課員が1名か2名しかいないことも…。その場合は鑑識のすべての作業を少人数でこなすか、刑事も鑑識活動に加わることがあります。鑑識の仕事がきついといわれる所以です。
鑑識には初級・中級・上級の資格があり、警察学校で全員が初級の取得を義務付けられています。このため鑑識課員でない捜査員でも、ある程度の鑑識活動は可能です。
鑑識の検視官が死亡の種類を判定
鑑識課には、被害者の死因を見極める「検視官」という役職もあります。本来、死亡を判定するのは医師の仕事ですが、医師が死亡診断書を書けるのは、死亡から24時間以内に医師にかかっていた場合に限ります。
例えば自宅で人が亡くなった場合、前日に医者に行ってなければ「変死」扱いとなり、鑑識の検視が必要です。そういった場合、鑑識課の検視官が死亡の種類を判定して事件性の有無を確認し、監察医が死因を認定するのです。
鑑識課には他にも、モンタージュ写真を作る「特殊写真係」や指紋の照合をする「指紋照合係」などがあり、専門の機器や薬剤を使って作業を行います。また、鑑識課には「警察犬」も所属。「警察犬係」の主な任務は警察犬の管理と運用です。
鑑識課に所属している警察犬の活動
鑑識課に所属する警察犬の主な活動は、現場に残された遺留品の臭いから足取りを追ったり、行方不明になった人の臭いを辿り探し当てる「足跡追及活動」、遺留品の臭いと容疑者が一致するかどうかを調べる「臭気選別活動」、一定の地域内から人や物を探す「捜索活動」などになります。
鑑識課に所属する警察犬の犬種はシェパードが最も多く、他にはドーベルマン、エアデール・テリア、コリー、ボクサー、ラブラドール・レトリバーを日本警察犬協会が指定。また、普段は民間で飼育される「嘱託犬」があり、柴犬などの小型犬も含まれます。
鑑識課に所属する警察犬の中には、室内犬で知られるトイプードルもいます。2015年に、殺処分寸前で保護されたトイプードルの「アンズ」が茨城県警の鑑識課で採用されました。
鑑識は時には刑事よりも立場が上
ドラマや映画で、刑事が到着するより早く鑑識活動をしているシーンを見かけたことがあるはず。事件が発生すると、真っ先に現場に駆け付けるのが鑑識課員です。証拠採取の専門である鑑識は、時には刑事よりも立場が上になるのです。
ドラマなどでは、私服の刑事が立ち入り禁止のテープを潜り抜け、鑑識課員にあれこれ尋ねるドラマのシーンがドラマなどでよく見られます。しかし、刑事といえども鑑識課員に指示や命令を与える権限はありません。
現場で鑑識活動が行われている間、捜査員の立ち入りを禁止することもあります。鑑識が目に見えない痕跡や細かい証拠品を探す間、ドカドカと刑事たちに入り込まれては作業の邪魔になるからです。
鑑識は刑事より早く現場に急行する
ここで事件発生後の鑑識課の動きを見ていきましょう。事件が発生して110番通報があると、通信指令本部から110番指令が出ます。事件発生から現場に駆け付けるのは所轄警察署、機動捜査隊、鑑識課、捜査1課の順です。
まずは所轄の署員が駆け付けて事件の現場を見張ります。続いて、鑑識課が向かって現場の証拠を収集開始。鑑識課の証拠収集の後、捜査本部の開設となります。すなわち、鑑識は刑事より早く現場に急行するのです。
鑑識は殺人だけではなく、強盗、放火、盗犯といったあらゆる事件を扱い、24時間体制のために極めて多忙な部署。しかも、専門技術や知識が必要なきつい仕事のため、鑑識課は慢性的に人員不足だといわれています。
鑑識と科学捜査研究所との違いとは
犯罪現場で採取された遺留品はまず「鑑識」で分析が行われますが、すべてが鑑定されるわけではありません。より正確な分析が必要となった時、送られるのが科学捜査の研究や鑑定を行う機関「科学捜査研究所(科捜研)」になります。
警察による事件捜査で今や欠かせないのが科学捜査です。科学捜査は人間の思惑が介入しない中立の立場として、事件解決に大いに役立っています。科学捜査と聞くとDNA鑑定などが思い浮かびますが、鑑識による指紋鑑定も立派な科学捜査です。
交通事故や火災の鑑定も、警察の科学捜査の一つ。交通事故は路上にできたタイヤ痕やオイル痕、車両の傷などから衝突速度や加害車両の特定ができます。火災鑑定では、ガソリンなどの燃焼促進剤が現場の壁や木材などから検出されるか調べます。
そんな警察の科学捜査では、鑑識と科捜研で役割が違っています。科学捜査の役割分担としては、指紋や足跡の鑑定、交通鑑識などが鑑識。DNA解析、音声解析、血液型判定、筆跡鑑定、銃器、爆発物、火災などは科捜研です。
鑑識による指紋鑑定にかかる時間
鑑識の代表的な科学捜査となる指紋鑑定は、かつては1つ1つ目で見て判断していました。このため、鑑識の指紋鑑定は膨大な時間を要する作業でした。現在は「自動指紋識別システム」は1件につき0.1秒未満という速さで指紋の照合が可能です。
具体的には、鑑識は指紋をまずスキャナーやカメラで撮影してPCに画像として取り込みます。そして、鑑識は「自動指紋識別システム」を使って指紋の照合を行うのです。基本的に鑑識では特徴点が12点以上一致すれば同一と見なされます。
科捜研の代表的な科学捜査であるDNA解析においては、体液や毛根など体のどの細胞から採取してもDNAは同一。唾液が付着したタバコや皮脂が付いた眼鏡、指紋などからもDNAは検出できるのです。
そして、膨大なDNA情報の中から20ほどの部位の塩基の繰り返しパターンが、容疑者のものと一致しているかを判定。20数年前の導入直後と比べ、現在は判定するDNAの部位が増え、検査手法の改良もあって精度が格段に向上しているのです。
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ラジオライフ編集部
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