イラネッチケー裁判でのNHK受信契約の争点を解説
東京都文京区の女性がNHK放送を視聴できないテレビを自宅に設置し、NHK(日本放送協会)を相手取り受信契約を締結する義務がないことの確認を求めた裁判の控訴審判決が2月24日、東京高裁であり、裁判長は女性側勝訴とした東京地裁の判決を取り消して、請求を棄却しました。この裁判で争点となった「イラネッチケー」について見ていきましょう。
イラネッチケーの価格はAmazonで4,980円~
NHKを相手取り裁判を起こした女性が設置したテレビに取り付けられていたのは、NHKの信号だけを減衰させる周波数フィルター「イラネッチケー」です。NHKは、イラネッチケーを取り付けてもテレビの構造上、NHK放送を受信できる機能が備わっていて復元も容易と主張していました。
裁判で話題のイラネッチケーの英字表記である「iranehk」は「いらねー(irane)」と「NHK」を合体させた造語。裁判で話題のイラネッチケーは、NHKがテレビ放送に利用する周波数帯のみカットする構造です。テレビとアンテナの間に、裁判で話題のイラネッチケーを取り付けるとNHKだけが受信不可能になります。
イラネッチケーは、筑波大学映像メディア工学専攻の掛谷英紀研究室が開発したもの。掛谷英紀氏は筑波大学システム情報系准教授です。
NHKが地上波テレビで使う周波数帯は送信所ごとに違うため、裁判で話題のイラネッチケーには地区ごとにカットする周波数が異なるバージョンが存在。裁判で話題のイラネッチケーは関東用・関西用・東海用・BS用とNHKの周波数帯域ごとにモデル分けされています。裁判で話題のイラネッチケーの価格は4,980~7,800円です。
イラネッチケー裁判の判決で控訴
これまで、イラネッチケーを取り付けることでNHK受信契約が無効と争った裁判で、受信契約を結ばなくてよいという判決が出たことはありませんでした。2016年に東京地裁で出た判決は、イラネッチケーを容易に取り外しできるという理由で、NHK受信契約を解約する理由にはあたらないというものでした。
さらに、イラネッチケーを接着剤などで固定して容易に外れないようにした状態にしたうえで、NHK受信契約の解約を争う裁判が行われましたが、こちらもNHK側の「固定されていても外すことが可能」という立証が認められてしまい、解約は認められません。
それが2020年6月の東京地裁の判決では、女性がイラネッチケーを設置した内蔵テレビを「NHK放送を受信できる設備とは言えない」と指摘。復元するのも困難だとして、イラネッチケー内蔵テレビ裁判でNHKの主張を退けました。NHKはこれに対して不服ということでこのイラネッチケー内蔵テレビ裁判を東京高裁へ控訴します。
イラネッチケー裁判で最高裁に上告
東京高裁の判決は2021年2月24日に出たのですが、イラネッチケー内蔵テレビなどの証拠関係がほとんど一審の東京地裁の裁判と同じながら、判決はNHK側が逆転勝訴となってしまいました。その裁判の判決の大きな理由は、ブースターが市販されていて入手が容易なためで、イラネッチケー内蔵テレビにブースターを取り付ければNHKテレビ放送を受信できる設備にあたるという判断でした。
とはいえ、裁判で問題となったイラネッチケー内蔵テレビにブースターを取り付けるためには同軸ケーブルの加工が必要なうえ、NHKが受信可能なレベルまでブースターで増幅すると、今度は民放の受信レベルが高くなりすぎて故障の恐れもあります。
それにもかかわらず、このイラネッチケー内蔵テレビ裁判では、一転して原告の請求が棄却される結果となったのでした。視聴者側は最高裁に上告したとのことなので、その後イラネッチケー内蔵テレビ裁判でどのような判断が出されるか要注目です。
イラネッチケー裁判で最高裁が不受理
東京高裁の判決を受けて、イラネッチケー内蔵テレビ裁判の視聴者側は最高裁へ上告したものの、最高裁はこれを受理せず東京高裁の判決が確定しています。そのため、今後イラネッチケー裁判と同様に物理的なフィルターを使いNHKのみ映らなくするという手法では、NHK受信契約を拒否することは難しいといえるでしょう。
NHKの受信契約は、NHKが映るテレビを持つ人に結ぶ義務があると定められています。であれば、NHKが映らないテレビを作ってしまえば、NHKの受信契約が不要とも考えられ、それを実現した装置がイラネッチケーでした。
しかし、イラネッチケー裁判ではNHK受信契約が必要という判決が出され続けているのが実状。現時点では、裁判で話題のイラネッチケーでNHK受信契約は拒否できるかと問われたら、「拒否できない」というのが答えになります。
イラネッチケー裁判で内蔵アンテナ設置
このほか、イラネッチケーを巡る裁判では、東京高裁で2021年2月、ある裁判が確定しました。このケースは、関西のホテルがイラネッチケーを内蔵したアンテナを屋上に設置し、NHK受信契約の解約を申し入れたことが始まりでした。
この裁判でNHK側は、専門業者を雇いイラネッチケーを設置したホテルの受信状況を調査。ホテル屋上までNHKテレビ放送の電波が届いている一方、アンテナにイラネッチケーが内蔵されているため、ホテルの客室ではNHKテレビ放送が視聴できないことがわかりました。ここまで確認した上で、NHKはホテルへ地上契約分の受信料を客室数分だけ支払うようイラネッチケーを巡る裁判を起こしたのです。
このイラネッチケー裁判では、NHKはホテルに設置されたテレビはアンテナさえ接続すればNHKが受信可能な状態にあり、アンテナも一旦はテレビ放送の電波をキャッチしたうえでNHKテレビ放送のみ減衰させているだけなので、NHKテレビ放送は「受信」していることになるという主張をしています。
イラネッチケー裁判をめぐる判決が確定
一方、ホテル側は裁判でアンテナにはマッチング回路とフィルターを一体にしたイラネッチケー基板が取り付けられ、NHKテレビ放送が受信できないと主張。テレビ放送の受信に使われる八木アンテナは、設計によるもののマッチング回路がないとうまく機能しないことがほとんどで、このイラネッチケー裁判でのホテル側の主張は説得力があるように見えます。
しかし、2020年3月に出された東京地裁の判決では、NHKの主張は採用しなかったものの、マッチング回路とフィルターを一体にしたイラネッチケー基板を外せば受信できるのでNHK受信契約は有効という判断となったのです。ちなみに、イラネッチケー基板を外した状態で本当にテレビ放送が受信可能かについての実験は裁判では検証されていません。
一審の東京地裁の判決に対しホテル側は控訴したものの、2021年2月の東京高裁のイラネッチケー裁判判決は東京地裁判決を追認するものでした。なお、ホテル側は上告をしなかったため、イラネッチケーを巡った裁判では東京高裁の判決が確定しています。
イラネッチケー裁判で争われた取り付け手順
それでは、裁判で争われたイラネッチケーは実際にどのように動作するのでしょうか。そこで、イラネッチケーを取り付ける方法を紹介したYoutube動画「イラネッチケー取り付け NO.00056」を確認してみましょう。
イラネッチケーを取り付ける手順は、テレビのアンテナ端子と電波引き込み用の同軸ケーブルの間に挟み込むだけ。動画では、取り付け後にNHKのみ受信不可能で民放は視聴できる状況も公開されています。
このイラネッチケーを「テレビに溶接する」「イラネッチケーを基板上に溶接した上にエポキシ樹脂で固めて外すと壊れる」といった内蔵テレビパターンで視聴者側がNHKと裁判を争いましたが、いずれもNHK勝訴の判決が出ているというわけです。
イラネッチケー裁判の裏で行われたBS再編
2018年春に行われたBS再編の際には「イラネッチケー潰し」が行われたという噂が飛び交いました。現在のBS用イラネッチケーはBS-3chと15chをカットする仕様です。しかし、2018年以前のイラネッチケーはBS-15chのみでNHK BS1とNHK BSプレミアムの両方を受信カットできていました。
BS再編は2018年12月から始まる新4K8K衛星放送用に周波数を確保するために、既存の2K放送の帯域を削減するためのものです。しかし、この再編でチャンネルの変更も実施。BSデジタルは、1チャンネルあたり2~3ch分のHD番組を放送可能です。
以前は、BS-15ch(NHK BS1でNHK BSプレミアムが利用)だったものが、改変後はBS-3ch(NHK BSプレミアム・WOWOWプライム・ディズニーチャンネルが利用)と、BS-15ch(NHK BS 1・スターチャンネル2・スターチャンネル3が利用)といった具合に、NHKの割当てが他番組との共同利用となりました。
このため、イラネッチケーでBS-3chをカットすると、NHK BSプレミアムに加えてWOWOWプライムやディズニーチャンネルも視聴不可に…。イラネッチケーでBS-15chをカットするとNHK BS 1・スターチャンネル2・スターチャンネル3が視聴できなくなってしまいます。このため、イラネッチケー裁判の裏でBS再編が密かに盛り込まれたという噂がささやかれたわけです。
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ラジオライフ編集部
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