FM補完放送によってAMラジオがなくなる理由
民放のAMラジオが全部FMになってAMラジオがなくなる…最近、そうしたニュースが話題になりました。日本各地のAMラジオ局は、すでにFMでも同時送信していて、これをFMだけにしてしまおうというものです。これは「FM補完放送」と呼ばれるもので、民放のAMラジオ局すべてがFM補完放送を行っています。
FM補完放送をAMラジオ局が放送中
AMラジオ局がFMでも放送しているのは「FM補完放送」と呼ばれるものです。これは、AMラジオが使う中波帯の電波が、都市部では電子ノイズ等で聞きづらくなってきたことから、その対応としてVHF帯を使うFMラジオで同時送信を始めたものでした。
もちろん、都市部であっても屋外の外部アンテナを用意し、アース対策をバッチリ行えばAM放送を聞くことは十分可能。とはいえ、そこまでしてAMラジオを聞きたい人は、一部のマニアに限られるでしょう。
当初、関東広域エリアで始まったFM補完放送は全国に拡がり、今は民放のAMラジオ局すべてが放送を行っています。元からのFMラジオ局と同じワイドFMで放送するためFM補完放送はAMラジオと比べ音質もよく、AMよりFMという人も多いのではないでしょうか。
FM補完放送は2015年にスタート
FM補完放送が始まったのは2015年。TBSラジオ、文化放送、ニッポン放送の在京AM3局が東京スカイツリーから高音質のFM波による放送を始めました。東京の民放AMラジオ局3社はFM補完放送にワイドFMという愛称を制定。周波数はTBSラジオが90.5MHz、文化放送が91.6MHz、ニッポン放送が93.0MHzです。
FM補完放送とは、ビルの影で電波が届かないといった都市型難聴や外国波混信、地理的・地形的難聴、災害への対策のため、AMラジオ放送局に対して、既存のFMラジオ放送局と同等なFM波の割り当てを行うものです。FM補完放送は正式名称を「FM補完中継局」といい、コールサインのない中継局としての位置付けです。
首都圏では2015年の春にはFM補完放送開始の予定でしたが、東京スカイツリー営業開始後のアンテナ工事になり、半年以上遅れてしまったのです。
FM補完放送は周波数再編成の一環
FM補完放送はテレビ放送の地デジ化によって空いた、90~108MHz帯の周波数再編成の一環。90~95MHz帯を主にAMラジオ局に割り当て、災害対策や外国局の混信、地形的な難聴対策として使われます。
そして現在、コミュニティFM局は全国に280局以上あり、地域によっては新規開局の割り当て周波数の不足が懸念されています。その問題を解決するために、コミュニティFM局への割り当ても始まります。
さらに東京地域など、アナログテレビ周波数のガードバンドとして割り当てられなかった85~90MHz帯が、コミュニティFM局へ向けて解禁になります。地方では割り当てられていた85~90MHz帯が、全国割り当てになるのです。
FM補完放送の開局の影で、AMラジオ放送のNHK第1放送京都局が閉局。2015年は割り当て周波数が拡大したFM波を中心に、ラジオ界がソフト&ハードともに、大きく変わった年なのです。
FM補完放送はアンテナ自体はコンパクト
元々AM放送を補うために始まったFM補完放送ですが、ここへ来て状況が変わりつつあります。というのも、日本民間放送連盟(民放連)が総務省へAMラジオ局をすべてFM放送へ一本化したい、という要望を出したのです。
民放連加盟のラジオ局がAM放送を止めたい理由はいくつかありますが、一番大きいのが送信のために大型アンテナが必要なことです。多くのAMラジオ局は河川敷や海岸など広い敷地に高さ100m以上あるアンテナを立てていますが、維持コストだけでもばかになりません。
FM補完放送の場合、見通し距離しか受信できないため高い位置から送信する必要がありますが、アンテナ自体はコンパクトで済みます。FM補完放送は平野部でも東京スカイツリーのような高い電波塔があればOKです。
FM補完放送は放送エリアをカバーできない
しかし、AMラジオを直ちに止めてFM補完放送だけにしてしまうと問題が起きてしまいます。それは、今のところFM補完放送はあくまでも「補完」なので、放送エリアすべてをカバーしていないことです。例えばTBSラジオの場合、東京都・千葉県・埼玉県・神奈川県が放送エリアですが、FM補完放送は東京スカイツリーからの送信のみ。これでは4都県すべてをカバーしきれません。
「元からのFM局はどうなの?」という疑問が湧きそうですが、TBSと同じ東京にあるFM東京の場合、サービスエリア自体が東京都のみ。それでも、八王子や八丈島などに中継局を置き、東京都全体をカバーしています。
ラジオ局がAM放送を止めるためには、まずFM中継局の増設が欠かせません。また、NHKは法律でAMラジオ放送が義務づけられているほか、放送エリアが広い北海道や短波帯のラジオNIKKEIはそのまま続ける可能性が高く、FM補完放送でAMラジオ自体がなくなることは当分ないでしょう。
FM補完放送とAMラジオ放送を受信
90MHz帯を使ったFM補完放送の中継局として、2014年7月16日に初の予備免許を取得した南日本放送(MBC)。2015年1月1日からAMラジオ放送(1107kHz)と同じ番組が、92.8MHzのFM補完放送でサイマル放送されています。
鹿児島市の高台にある紫原送信所は、県内のテレビ5局とFMラジオ3局で共用しています。これに加えて南日本放送はFM補完放送の中継波(92.8MHz・1kW)を送信。そのサービスエリアは鹿児島湾岸地域に及びます。
南日本放送ではAM波が聞こえる地域にFM補完放送を送信しているので、両波の聞き比べが可能です。2台のソニー「ICF-SW7600GR」で受信してみると、こもり気味のAM波に対して、FM補完放送のクリアな音色が際立ちます。
FM補完放送は夜間に威力を発揮する
さらに、鹿児島市内にあるFM補完放送の送信所からJR指宿枕崎線に沿って南下し、サービスエリア外へと向かう受信実験を行いました。
FM補完放送のサービスエリアの先まではクリアに受信できるものの、ある点を越えると途端に聴取不能に。FM補完放送の送信所から離れるに従って徐々に明瞭度が落ちていく、AM波との受信感触の違いが出ました。
FM補完放送の受信実験は昼間のため、AM波は混信なしに受信できましたが、夜間になると外国局の混信が発生。FM補完放送は夜間の受信において威力を発揮するのでした。
FM補完放送対応の76~108MHzを受信
FM補完放送のスタートに合わせて、ソニーからFM補完放送対応のラジオが一挙に5機種リリースされました。防災用から日常用まで幅広いラインアップ。いずれのラジオも受信周波数はFM補完放送対応の76.0~108.0MHzです。
まず紹介するFM補完放送対応ラジオが「ICF-B09」と「ICF-B99」の2機種。どちらも手回し充電が可能な防災ラジオで、FM補完放送対応しているだけでなく、スマホなどの携帯端末への充電ができます。実勢価格はICF-B09が7,600円、ICF-B99が8,600円です。
受信周波数は両機種ともにAMラジオ放送が530~1710kHz、FMラジオ放送がFM補完放送対応の76.0~108.0MHz。電源は単3形乾電池×2本となっています。ICF-B09のサイズは約132W×77H×58Dmm、重さは約376g。ICF-B99のサイズは約132W×79H×58Dmm、重さは約385gです。
FM補完放送対応ラジオで新たに発売
次に紹介するFM補完放送対応ラジオが、乾電池駆動のポータブルラジオ「ICF-306」「ICF-P36」「ICF-P26」。それぞれ、FM補完放送対応となって新たに発売されました。実勢価格は順に3,900円、2,400円、2,400円です。
3機種ともに受信周波数は、AMラジオ放送が530~1605kHz、FMラジオ放送がFM補完放送対応の76.0~108.0MHz。電源は単3形乾電池×2本仕様です。機能面では同じですが、サイズと価格が異なるのでライフスタイルに合わせてセレクトできます。
取っ手付きのICF-306のサイズは約190.1W×97.3H×51.3Dmm、重さは約400g。小型横置きタイプのICF-P36のサイズは約131.5W×69.5H×43.5Dmm、重さは約210g。小型縦置きタイプのICF-P26のサイズは約69.5W×119H×38Dmm、重さは約180gです。なお、ICF-P36、ICF-P26はすでに生産終了しています。
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