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AMラジオ廃止問題は2023年の再免許時がポイント

共同通信が伝えた「ラジオのAM放送廃止を要請へFM一本化、民放連」のニュースは、ネットや新聞各紙で話題になり、ラジオリスナーを愕然とさせました。AMラジオ放送局の根幹を揺るがす今回の廃止報道の1件。なぜ、こんなことになったのか、AMラジオ放送廃止の事実関係を整理し、その背景や今後を考えてみましょう。


AMラジオ廃止問題は2023年の再免許時がポイント


AMラジオ放送廃止ではなくFM波に転換

2019年3月22日に、共同通信が伝えた「AMラジオ放送廃止」というニュースは、正確には事実と異なります。「廃止」という言葉だけが一人歩きをして、国内のAMラジオ放送が無くなると誤解してしまった人もいるようですが、その心配はいりません。日本が国の法制度として、AMラジオ放送を廃止するのではないからです。

今回の1件は「AMラジオ放送廃止」でなければ何なのでしょうか。民放AMラジオ放送局の多くの考えは「AM波を廃止してFM波に転換したい」なのです。AM波もFM波も廃止せず両方続けたいとするAMラジオ放送局もあるので、「FM1本化」も正確ではありません。

ニュースから5日後の2019年3月27日に、総務省の有識者会議が開催され、その席上で、業界団体である民放連(日本民間放送連盟)が、「ラジオの将来に関する要望」の1つとしてAMラジオ放送廃止に関する「FM補完中継局制度の見直し」を出しました。

共同通信のAMラジオ放送廃止記事はこれをスクープしたのです。AMラジオ放送廃止に関するその要望の内容は以下の通りです。1つは、FM補完中継局制度を見直し、AMラジオ放送からFMラジオ放送への転換や、両放送の併用を可能とするよう制度を整備するというものです。


AMラジオ放送廃止に関わる要望

2つめは、遅くとも2028年の再免許時までに、AMラジオ放送事業者の経営判断によって、AM波廃止からFM波への転換や両波の併用を全国的に可能とすること。

3つめは、全国的な制度整備に向けた諸課題を洗い出しつつ、2023年の再免許時を目途に、AMラジオ放送を一部地域で実証実験として、長期間にわたり停波できるよう総務省は必要な制度的措置を行うというものです。

AMラジオ放送廃止に関わる要望の中に出てきた文言を整理していきましょう。まずはAMラジオ放送廃止に関わる「FM補完中継局制度」です。いわゆるワイドFMのことで、2014年から開始したこの制度は、2013年に総務省の有識者会議「放送ネットワークの強靭化に関する検討会」が、「AMラジオ放送について、現在は外国波混信対策に限定されているFM波の利用を、難聴対策や災害対策にも利用可能とすることが適当である」という取りまとめの提言を受けて、制度化されたものです。

ワイドFMは「AMラジオ放送局の放送エリアにおいて、難聴対策や災害対策のために、新たにFMラジオ放送用として使用可能とした周波数(90.0~94.9MHz)により、AMラジオ放送の番組を放送するもの」です。

AMラジオ放送局の親局をFM波でカバーする、主たる補完中継局になります。そのため、独自のコールサインは持っていません。なので、親局が廃局した場合は、同時にFM補完中継局も無くなってしまうのです。


AMラジオ放送廃止は2023年がポイント

そのため「制度を整備する」として、以下のことが考えられます。1つは、AMラジオ放送廃止で免許を返上しても、FM波の免許は維持できるようにするというもの。もう1つは、AM波の免許は維持するが常時休止(停波)として、FM波は補完のまま番組を放送する。もしくは、FM波を補完ではなくするというものです。

AMラジオ放送廃止に関わる「再免許時」という言葉にも注目したいところです。AMラジオ放送廃止に関わる地上基幹放送局の免許の有効期間は原則5年。AMラジオ放送廃止に関わる現行の免許は2023年10月31日をもって満了します。

つまり、2023年11月の再免許時までには、AMラジオ放送廃止に関して何らかの動きがあることになります。なぜかというと、再免許申請時には、向こう5年間の事業計画を提出するため、AMラジオ放送廃止の具体的な内容を記述する必要があるからです。AMラジオ放送廃止は2028年ではなく、2023年の再免許時がポイントになります。

続いて、AMラジオ放送廃止が「AM放送事業者の経営判断によって」と記載されているのは、法律で強制しないということです。「全国的に可能」であるものの、一部報道でAMラジオ放送廃止は「北海道などエリアが広い地域は除く」とあったように、制度によって転換の制限はしないという意味になります。


AMラジオ放送廃止は民放局の要望

このようにAMラジオ放送廃止には、民放のAMラジオ局からの要望を受けて検討されているものです。民放のAMラジオ局は、全局がFMラジオでの同時放送を実施中。FMラジオでの同時放送は「FM補完放送」と呼ばれ、文字通りAMラジオを「補完」するためにスタートしました。

AMラジオをFMラジオで補わなくてはならない理由は、とくに都市部でAMラジオを受信することが難しくなっているためです。AMラジオが使用する中波帯は、電子機器や太陽光発電施設が発生するノイズが混信しやすい周波数帯で、VHF帯を利用するFMラジオの方が受信しやすい場所が多くなっています。

FM補完放送が利用する周波数帯は、これまでのFMラジオ局より高い90.1~94.9MHzとなっています。現在国内で販売されるFMラジオは、カーナビも含めワイドFM対応となっているほか、アナログ時代のテレビ音声を受信できたラジオでも聴取可能です。


AMラジオ廃止しない放送局のデメリット

とはいえ、AMラジオ局にとってはAM・FM両方の設備を用意することになるため、AMラジオのみ放送する以上にコストがかかります。そこで、大がかりなアンテナ設備が必要なAMラジオ放送は廃止してしまい、「補完」だったFMラジオをメインにしようという動きが2019年から出始めていたわけです。

AMラジオ局側から総務省へ出されたAMラジオの停波要請について、総務省は2021年6月に容認すること決定。AMラジオ放送廃止の時期については、2028年度までを目標とすることになりました。なお、AMラジオ局のうち北海道放送(HBC)・札幌テレビ放送(STV)・秋田放送(ABS)の3局はAMラジオ放送を廃止しない方針です。

AMラジオ放送を廃止しない3局に共通するのが、サービスエリアとなる北海道・秋田県の面積が広いこと。AMラジオ放送廃止がむしろデメリットになるのです。

例えば、AMラジオ放送を廃止しない秋田放送の場合、親局となる秋田局のほか、中継局5局の合計6局体制でカバーしています。ところが、AMラジオ放送を廃止してFMラジオに完全移行する場合は40局以上の中継局を新設しなければならないデメリットがあるのです。


AMラジオ放送廃止でNHKは1波体制

民放AMラジオ局のほとんどがAMラジオ放送を廃止するなか、NHKはAMラジオを引き続き放送する予定です。というのも、NHKが行うFMラジオ放送「NHK-FM」はAMラジオとは完全に別番組で、NHKラジオ第一・第二のAMラジオ局を「補完」するFMラジオ局が存在しないためです。

しかし、NHKは経営をスリム化するという理由から現在放送中のラジオ第一・ラジオ第二のAMラジオ放送を廃止せず統合し、AMラジオ1波体制への移行を検討することになっていました。この方針は、2021年1月に正式決定された「NHK経営計画(2021~2023年度)」に盛り込まれたものです。

ところが、2022年10月にNHKから出された「NHK経営計画(2021~2023年度)」の改正案では、AMラジオ1波体制の検討に関する文言が削除されているのです。ただし、この改正案は現在NHK経営委員会で審議中のため、AMラジオ1波体制の検討については復活する可能性も残されています。

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ラジオライフ編集部

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